大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京高等裁判所 昭和59年(ネ)1851号 判決

控訴人

鱸久子

右訴訟代理人弁護士

藤谷正志

金丸弘司

堀野紀

被控訴人

右代表者法務大臣

後藤正夫

右指定代理人

賓金敏明

竹野清一

齋藤泰茂

袖山久男

小室丈夫

青木優

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴代理人は、「原判決を取り消す。被控訴人は控訴人に対し、金一二二八万二六三〇円及びこれに対する昭和四八年九月五日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

二  当事者双方の主張は、次のとおり補正し、付加するほか、原判決事実摘示第二(原判決添付の別紙(一)及び(二)を含む。)のとおりであるから、これを引用する。

1  原判決三丁表一・二行目の「現在に至っている。」を「昭和六二年三月定年により退職した。」と、同八丁裏三行目及び同三五丁表五行目の各「ガリバン筆耕」を「ガリ版筆耕」とそれぞれ改める。

2  同三一丁裏八行目の「あった」の次に「(なお、控訴人が昭和六二年三月定年により退職した事実は、被控訴人において明らかに争わないで、これを自白したものとみなす。)」を加える。

3  同五〇丁裏三・四行目の「(以下、これを「頸肩腕症候群」という)」を削り、同八行目、同五一丁表六目及び八行目の「頸肩腕症候群」の次にいずれも「(狭義)」を加える。

4  同五一丁裏一行目の「原告の訴える症状の原因」を「控訴人の症状及びその原因」と、同二行目の「原告の訴える症状の原因は、頸椎椎間板の変性」を「控訴人の症状は変形性頸椎症によるものであり、その原因は頸椎椎間板の変性(頸椎の加齢による変性)によるもの」とそれぞれ改め、同五二丁表一行目の「変性」の次に「(頸椎の加齢による変性)」を加える。

5  同五二丁表八・九行目の「各月分上欄」を「各欄中の上段」と改め、同一〇行目の「主張する。」の次に次のとおり加える。

「右修正の事情は次のとおりである。すなわち、別紙(二)(原判決添付のもの)の各欄中の下段の数値は乙第一〇号証(川口税務署管理課における電気加算機事務量調査)に基づいているが、各欄中の上段の数値は、次の理由によりこれに若干の修正を施したものである。

(1)  収納機関別日計票の集計

乙第一〇号証では、昭和四二年七月分のうち、同月二四日以降に作成した収納機関別日計票の事務量が把握もれとなっているが、その分の事務量は、同年七月中に処理したものが約二万五〇〇〇ストロークであり、これを乙第一〇号証九丁の受入金集計表の合計ストローク数一一万三九一〇と税目別内訳の合計ストローク数六四万二六五〇に従って按分すると、受入金集計表が三七六四ストローク、税目別内訳が二万一二三六ストロークとなる。また、同年八月中に処理したものは、甲第一〇号証(四丁)で指摘する差のうち、受入金集計表が三四四〇ストローク税目別内訳が約三万一二〇〇ストロークである。

(2)  収納日計票の集計

乙第一〇号証では、過誤納に関する事務量の把握もれがあるところ、この分は一件について四ストローク程度と考えられる。そして、甲第一〇号証によれば、昭和四二年八月分は二二七件というのであるから、毎月一〇〇〇ストローク程度を見積もっておけば十分である。

(3)  収納未済額の集計

停止分徴収カードについての集計事務量については、通常、報告担当者が一般の徴収カードとは別に集計する場合が多いため、乙第一〇号証においては除外してあるが、川口税務署においては控訴人が右の集計をしていたとしても、昭和四二年八月における右の分のストローク数は、甲第一〇号証から二三六二程度と考えられるので、控訴人着任以前に未済照合がすんでいる同年七月分を除く各月について右程度のストローク数を計上すれば十分である。なお、相続税及び贈与税の延納税額に関する集計事務もあるが、これは年に一回(四月)行うのみであり、推定の資料はないが、ごく限られた件数しかないので、事務量に重大な影響を及ぼすとは考えられない。

なお、乙第一〇号証(三一丁)には、昭和四二年八月分から同年一一月分の申告所得税の収納未済件数中に集計していない第二期分の未済件数九〇〇〇件(三四丁参照)が含まれている。したがって、五万二一三七ストローク(九〇〇〇×五・七九三)が右各月のストローク数から差し引かれるべきである。

(4)  一括整理分の督促状の集計

乙第一〇号証では、この分がもれている。ところで、一括整理は、申告所得税については八月、一二月、三月に、贈与税については三月に、法人税については毎月行っている。

ところで、甲第一〇号証(別紙一)によれば、昭和四二年八月の一括整理分の督促状の集計は、三二九ストロークと一万〇七四三ストロークとあるので、前者が件数の少ない法人税、後者が件数の多い申告所得税に係るものと考えられる。

そこで、法人税については昭和四二年七月を除き毎月三二九ストローク、申告所得税については八月、一二月、三月に各一万〇七四三ストロークと推定する。なお、贈与税については推定の資料がないが、ごく限られた件数しかないので、事務量に重大な影響を及ぼすとは考えられない。」

6  同五六丁表二行目の「ものである。」の次に改行の上、次のとおり加える。

「(加算機業務の実験)

控訴人は、本件控訴提起後、集計3の「収納機関別日計票作成のための集計」につき、帳票のサンプルを作成し、四人の作業者を選んで加算機業務を実験した。これは、全集計作業(集計1ないし10)中、集計3の業務量が比較的に多いこと、比較的実験になじむこと(量的には集計5、同10も多いが、作業が複雑で帳票のサンプル作成が困難である)から、集計3を選んで実験したものである。

右実験結果による数値と乙第一〇号証の方法による数値を比較すれば、次表のとおりである。すなわち、乙第一〇号証の方法による「理論」的数値と、右実験結果の数値は大幅に異なるのであって、乙第一〇号証の方法では、作業の実態を到底把握しえないことが明らかである。

〈省略〉

(実験結果による控訴人の従事した加算機専担業務(集計3)の推定)

集計3についての実験結果に基づき控訴人が本件疾病に罹病したとみられる期間について、控訴人が従事した加算機専担業務のうち集計3の業務量を推定すれば、別表1(本判決添付のもの)記載のとおりとなる。

右推定は、次の方法によって行ったものである。

(一)  原符処理枚数について

昭和四二年八月、昭和四三年一月、同年三月については、「前半」、「後半」、「計」のいずれも、甲第一〇五号証(浦和地裁、検証物)の数値による。

その余の月について

(1) 「計」は乙第一〇号証の一二ないし一五丁の原符の合計数による。

(2) 「前半」、「後半」の数値の振分けは、八月の比率(前半八三パーセント)による。

(一月分は、月前半に休暇があり、また、一月一〇日納期限の源泉所得税の収納がある関係で、月の前半に事務が集中しない。また、三月は、月の後半も繁忙を極める。八月は繁忙期ではあるが、その余の月と前半、後半の事務繁閑の度合いはほぼ同じである。)

(二)  要処理時間と打鍵数について

実験結果から、次のとおり原符一枚の処理に要する時間と打鍵数の平均値を求め、算出した。

要処理時間(原符一枚当たりの所要時間)

〈省略〉

(三)  (二)のうちの控訴人分について

被控訴人の主張を採用した(すなわち、吉田淑子復帰以前は八〇パーセント、以後は五〇パーセント)。

(四)  控訴人従事日数

昭和四二年八月、昭和四三年一月、同年三月については、甲第一〇五号証(浦和地裁、検証物)に基づき作業従事日を推定した甲第一〇七号証の一ないし三による。

その余の月について

「前半」分は、控訴人の出勤日数(乙第四七号証の一、二)のうち八〇パーセント程度を従事日とみなし(甲第一〇七号証の八月の実績では、出勤日の約八〇パーセント程度従事しており、その余の月もおおむね同一とみなしうる)、「後半」分は、八月の「登記日」が三回で従事日が二・五日であり(甲第一〇七号証)、かつ、一月及び三月以外の月は八月と同様とみなしうるので、二・五日とした。

(右推定の意味するもの)

(一)  右の推定は、控訴人が従事した加算機専担業務のうち集計3について、実験結果から客観的資料に基づき推定したものであり、「理論」的推定ではなく(乙第一〇号証は「理論」的推定である)、実際の作業の裏付けを有するものである。

(二)  右によれば、加算機業務をキーパンチャーと同質とみなすことは到底出来ないことが明白である。

すなわち、右推定により、控訴人の業務が輻輳したとみられる昭和四二年八月(前半)昭和四三年三月(通算)には、控訴人の従事時間は一日当たり四時間以上(八月の前半)ないし五時間以上(三月通算)であり、勤務時間の過半を集計3に従事したことになるが、これをタッチ数でみれば、それぞれ一万四八〇二(八月前半)、一万八四六二(三月通算)にとどまる。そもそも、実験結果からすれば、一時間当たり集計3の作業上で可能なタッチ数は三五〇〇程度であり、七時間の実労働時間をフルに右業務に従事しても二万五〇〇〇タッチ程度にとどまる。これは、加算機業務の打鍵作業が、キーパンチャーとは異なり、打ちっぱなしでは作業として終了せず、「誤り原因の解明」の煩雑な作業を不可欠とするがゆえである。それゆえに、キーパンチャーの作業管理基準をもって加算機業務の「基準」とすることは、初歩的な誤謬を犯すことになる。

(三)  八月前半の業務の輻輳の程度は、(控訴人が初任者でまともな研修指導もなく業務を開始した特殊事情をおいても)、異常と言って差し支えない数値である。

一〇月には同僚の吉田淑子が復帰し、二人で業務を分担処理することが可能となったのであるが、一〇月と比較して前半では時間、打鍵数いずれも二倍以上、後半では二・九倍弱であり、通算では、二・三倍にもなっており、前記の特殊事情を考慮すれば、その異常さは一層明らかである。

(四)  最繁忙期である昭和四三年三月について、昭和四二年一〇月の業務量と比較すれば、月前半は一〇月の二倍、後半は一〇月の約三・五倍であり、通算では三倍である。

(五)  右の八月、三月に続き業務の輻輳した昭和四二年一二月も、一〇月と比較すれば、月前半は一〇月の一・六倍、後半は二倍であり、通算では一・七倍である。

(六)  加算機業務は、おおむね月前半に集中すること。

一月、三月は特殊要因から、必ずしも月前半に加算機業務が集中するのではないが、その余の月は前半に集中している(約八割程度である)。集計3以外の作業も、その余の月は前半に集中している(おおむね八割程度である)。その余の集計(集計3以外の作業)も、国税局への報告期限が毎月一四日(必着)とされている関係で月の前半に集中する。この期間(月前半)には、加算機専担者は業務処理に追われ、少々身体の具合が悪くても到底休めない状況になる。

(結論)

当然のことながら、控訴人が従事した加算機専担業務のうち、集計3はその一部である。本件訴訟資料により、全集計作業中に集計3の作業の占める割合を算定すれば、おおむね三〇パーセント程度ということができる。したがって、控訴人の集計作業の全体は、おおむね前記の推定の三倍程度と算定されるのであって、「タッチ数は八〇〇〇余、作業従事時間は四四分余」とする「理論」的推定は、いわば架空の「理論」にすぎないのである。

三 証拠関係は、本件記録中の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  当裁判所も、当審で提出された資料を含む本件全資料を検討した結果、控訴人の本訴請求は理由がないので、これを棄却すべきものと判断する。その理由は、次のとおり補正し、付加するほか、原判決の理由説示(原判決五七丁表二行目から同一一六丁表九行目の「こととし、」まで。原判決添付の別紙(三)を含む。)と同一であるから、これを引用する。

1  (略)

2 同六一丁裏末行の「しびれ(現症)、」を「しびれ、(現症)」と、同六二丁表三行目の「Cerrical Spoudylosis」を「Cervical Spon-dylosis」と、同六三丁表一・二行目の「レイノー病ではないが、」を「レイノー病ではなく、レイノー現象がみられない以上、レイノー症候群とみなすことはできないが、健康人に比して指先の循環状態はサブクリニカルではあるが、」と、同六三丁裏九・一〇行目の「右Ⅴ左肩甲挙筋」を「右Ⅴ左肩甲挙筋」とそれぞれ改め、同六四丁表九行目の「診断の結果、」を削り、同一〇行目の「された。」を「診断された。」と改める。

3  同六四丁裏六行目の「昭和四七年」から次行の「三回」までを「昭和四七年一月ころ中村医師の診察を受けたが、そのカルテによれば、その頃は『好調。こり忘れている。仕事一日出来る。頑張って疲れてもひと晩でなおる。疲れると早目に休養。』という状態であり、同年二月から週二回、昭和五二年一二月からは月三回」と改める。

4  同六五丁表四行目の「状態である。」を「状態であった。」と改め、同五行目の「『本件認定にかかる疾病』」の次に「又は『本件疾病』」を加え、同六行目の「いう)」の次に次のとおり加える。

「。なお、控訴人は昭和六〇年九月二四日、一〇月一日、一二月二四日に小豆沢病院整形外科において芹沢憲一医師(以下「芹沢医師」という。)の診察を受けたが、同医師は、控訴人にはその時点において頸肩腕障害としての症状は消失しているものと判断した。もっとも、芹沢医師は、控訴人をレントゲン撮影した結果、頸椎の変性を認めたことから、カルテには傷病名として変形性頸椎症の病名を記載したが、右記載は保険診療を行う必要上強いて病名を付したものであって、同医師としては控訴人がなお右疾病に罹患しているものと診断していたのではなかった。」

5  (略)

6  (略)

7  同七〇丁裏八行目の「(第一回)」を「(原審第一回)」と、同七一丁表八行目の「(第一回)」を「(原審第一回)」とそれぞれ改める。

8  同七四丁裏八行目の「(証拠略)」を「(証拠略)」と改め、同九行目の「(証拠略)」の次に「及び弁論の全趣旨」を加え、同七五丁表四・五行目の「認められる」の次に次のとおり加える。「もっとも、右推計には、打直し等による打鍵数(その正確な推計は、性質上困難である。)は含まれていないから、その意味では右推計による数値はいわば最低限度の数値を示すものであるということができる。)」

9  同七五丁表六行目の「(集計五)」を「集計5)」と、(以下略)。

10  (略)

11  (略)

12  同八三丁表八行目の「必ずしも」の次に「常に」を加え、同九行目の「考えられる上」からその裏一行目の「考えにくい。」までを「考えられるのであって、右各供述をにわかに信用することはできず、ほかに右事実を認めるに足りる証拠はない。」と改め、同裏四行目の「なお」から同八四丁表一行目の「認められない。」までを削る。

13  同八四丁表二行目の「(第二回)」を「(原審第二回)」と改め、同六・七行目の「打鍵数は」から同八行目の「けれども」までを「打鍵数は、打直し等の可能性を考慮すれば、右(六)認定の打鍵数をある程度上回るものと推定されるけれども、」と改める。

14  同八四丁表九行目の「得ない。」の次に改行の上、次のとおり加える。

「しかるところ、控訴人は、控訴人が行った実験結果に照らせば、右認定のような推定によっては控訴人が従事した業務の実態を到底把握することはできず、控訴人が従事した作業の業務量の推定は右実験結果に基づく数値をもってすべきである旨を主張するので、以下この点について検討する。

(証拠略)及び当審における控訴人本人尋問の結果(第一回)並びに弁論の全趣旨によれば、控訴人は本件控訴提起後である昭和六一年五月から八月にかけて控訴人を含む四名により、集計3の作業について作業実験を行ったこと、右実験は任意の数字を設定・記載した八四三枚の領収済通知書(原符)及び五五枚の受入金集計票の帳票のサンプルを作成した上、各人が集計3の作業(収納機関別日計票の作成作業)を試み、これに要する打鍵数、作業所要時間等を測定したものであること、その実験結果は本判決添付の別表2(以下、単に「別表2」という。)のとおりであること(別表2は控訴人の昭和六二年七月三〇日付け証拠説明書添付のもの。ただし、作業年月日欄の日付けを一部訂正した。乙第一〇号証による計算の場合の数値を含む。なお、別表2に乙第一〇号証による計算の場合の数値として掲げられているストローク数四八一三及び三六二(受入金集計表の集計による二九・五パーセントの増加割合を加えた数は四六八)は、それぞれ八四三(枚)及び五五(枚)に乙第一〇号証に基づく一枚当たりの平均ストローク数五・七一〇及び六・五八六を乗じたものであるが、このうち右五・七一〇の数値が乙第一〇号証記載のどの数値によったものか明らかでない(乙第一〇号証の一ないし二ページの3欄には五種類の数値が掲記されている。)。しかし、この点は大差のない数値であるから、差し当たり控訴人主張のとおりの数値のままとする。)、以上の事実が認められ、この認定に反する証拠はない。したがって、右実験結果によれば、乙第一〇号証による計算の場合の数値との比較(倍数)並びに原符一枚当たりの所要時間及び打鍵数が控訴人主張のとおりの数値となることは計算上明らかである。

しかしながら、叙上説示のとおり、叙上認定に係る控訴人の業務量の推定は打鍵数及びその所要時間のみについて行ったものであるところ、前記認定事実及び前掲各証拠によれば、控訴人の右実験による数値は、別表2のとおり、開封からそのいわゆる誤り原因の解明に至る作業全体の結果から原符一枚当たりの所要処理時間・打鍵数を算定しているのであるから(すなわち、その作業時間には打鍵作業以外の時間も含まれているのであって、右実験結果によっては打鍵のみに要する時間は明らかにされない。)、そもそも比較の前提を欠くものといわなければならない(弁論の全趣旨によれば、控訴人は、控訴人が従事した加算機業務はキーパンチャーの作業と異なり、見直し、照合等の精神的負担・疲労を伴う作業であって、単純に打鍵に要する作業時間のみを取り上げてこれを比較することは意味を有しないとの考え・意図の下に右実験を行ったことが窺われるが、本件疾病とのかかわりにおいては、第一次的には控訴人の身体的負担である加算機業務の打鍵作業それ自体の業務量を具体的に把握する必要があるというべきであるから、叙上認定に係る打鍵量の把握が意味を有しないものとは考えられず、むしろ、右実験結果による数値は本件疾病との関連において、控訴人が重視する精神的負担・疲労を客観化しえたものかどうか疑問なしとしない。)。のみならず、仮に右の点をおいても、右実験結果によれば、別表2記載のとおり、集計3の作業には検算・誤りの原因の解明のために、乙第一〇号証による計算の場合の二倍ないし三倍の打鍵を要するものとされているのであるが、集計3の作業について金融機関作成の受入金集計票につき常に検算を行うこと及び見直し・照合の段階において常に不可避的に打ち直しを必要とする前提を採り得ないことは叙上認定説示のとおりであるから、この点においても、右実験結果による数値をにわかに採用することはできない。そして、右検算及び誤り原因の解明に要するとされる打鍵数を除けば、右実験結果による打鍵数と乙第一〇号証による計算の場合の数値は有意的に乖離しているものとは直ちに認められない(別表2の3の項目については、実験例3と乙第一〇号証による計算の場合の数値は近似しているうえ、打鍵数自体は、右実験に用いられたサンプルの数字の設定に伴い当然に差異を生ずることも考慮されねばならない。さらに、右実験結果によれば、右実験に携わった四名の一分間当たりの打鍵数は、税目別集計につきそれぞれ一〇五、一〇二、一六二、一〇八、受入金集計票につき、四七、五三、七八、五〇となるところ、前掲乙第一〇号証によれば、川口税務署管理課職員について実施された試験結果では、加算機の一分間当たりの打鍵数は初心者につき八六、経験者につき一四九、一九六、二〇六の各数値を示していることが認められるから、控訴人が行った前記実験に携わった四名の打鍵速度はかなり緩慢であって、現実の業務の実態に即しているかどうか疑問の余地がある。なお、右実験に携った証人松本重也(別表2・実験例2)はその証言(当審)中において、同人は右実験の際、加算機業務を離れて一〇数年を経ていたため、間違いを起こさないよう毎回原符の数字と加算機のキーを見ながら打鍵したが、専門の担当者であれば、そのような打ち方はしない(いわゆるブラインド・タッチで行う)旨を述べる。)。

したがって、控訴人が従事した加算機業務の業務量の推定は前記実験結果に基づく数値をもってすべきである旨の控訴人の主張を直ちに採用することはできず、控訴人の打鍵作業における具体的な打鍵量の推定は叙上認定の数値をもって相当とすべく、他にこの認定を覆すに足りる証拠はない。」

15  (略)

16  同八七丁表二行目から同八八丁表五行目までの全部を削除し、同八八丁表六行目冒頭の「2」を「1」と改める。

17  同八九丁表五行目の「その作業態様においてほぼ共通するものというべく」を「、叙上認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、加算機業務はその作業時間中常時打鍵作業のみを連続して行うものではなく、打鍵作業の前後に帳票の分類・整理や集計結果の照合・見直し等の作業を伴う点でキーパンチャー業務とは異なるが、打鍵作業それ自体はキーパンチャーのそれと類似するものというべく」と改める。

18  同八九丁裏二行目冒頭の「3」を「2」と、同九二丁裏一行目冒頭の「4」を「3」と、同行の「2及び3」を「1及び2」とそれぞれ改める。

19  同九二丁表九行目の「行政基準となるもので」の次に「、基準設定の時期も本件疾病発症後で」を加え、同一〇行目の「基準」を「参考基準」と、同裏一〇行目の「一日たり」を「一日当たり」とそれぞれ改め、同九三丁表一行目の「推認されること」の次に「(もっとも、叙上説示のとおり、実際の打鍵数は右各数値をある程度上回るものと推定される。)」を加え、同八行目の「相当であるが」の次に次のとおり加える。

「(前記のとおり、前掲乙第一〇号証によれば、川口税務署管理課職員について実施された試験結果では、加算機の一分間当たりの打鍵数は初心者につき八六、経験者につき一四九、一九六、二〇六の各数値を示しているのであるから、右試験結果及び後記(七)認定のような控訴人が当時有していた加算機使用の経験等に照らせば、乙第一〇号証において控訴人の一分間当たりの打鍵数が一八〇程度と推定されているのは特に不合理なものとは考えられない。)」

20  同九三丁裏五行目の「あせり」を「焦り」と、同九四丁表末行から同裏一行目の「軽減するものと考えられるから、」を「軽減する要因となり得ても加重する要因となるとは考えにくいから、」と、(中略)とそれぞれ改める。

21  同九八丁裏二行目冒頭の「5」を「4」と改め、同三行目の「認定したとおり、」の次に「これを頸腕症候群(及び背腰痛)と診断し、」を加え、同七行目の「供述がある。」を次のとおり改める。

「供述があり、その理由の要旨は、控訴人の症状、所見(筋力検査成績等の所見)、その症状の経過等からみて、控訴人の場合、昭和二二年から二〇年間税務署勤務を続けた後、加算機業務に従事するようになってから間もなく、右肩、腕、手指に症状を発現し、その進行を自覚し始めたが、それにもかかわらず九ないし一〇か月にわたって右業務に従事し続けたことが、難治の病態を完成させるに至った決定的な原因である、というのである。なお、中村医師は、いわゆる頸肩腕症候群の診断については産業衛生学会で報告された頸肩腕障害の定義及び病像を重視する立場を採るが(右報告に係る頸肩腕障害の定義及び病像が引用原判決事実摘示第二の一請求原因6(一)の(1)及び(2)記載のとおりであることは当事者間に争いがない。)、控訴人の症状は頸肩腕障害の右病像のⅢ度に該当するものである、という。」

22  同九八丁裏八行目の「中村医師」から同一〇行目の「ある上、」までを削り、同九九丁表一・二行目の「きいたものの、」を「聞き、」と改め、同二・三行目の「全く不明ということで、」を削り、同三行目の「ほぼ」を「これをほぼ」と改め、同六行目の「他方、」の次に「打鍵数が」を加え、同一〇行目の「4」を「3」と、その裏一行目の「証拠はないから」を「証拠はなく、控訴人が従事した打鍵作業の量及びその従事期間等は叙上認定のとおり(五3(一))であるから」とそれぞれ改める。

23  同九九丁裏二行目の「誤っていた」から三行目の「従って、」までを次のとおり改める。「必ずしも正確ではない、との疑問をはさむ余地があるといえる。また、当審証人芹沢憲一の証言によれば、芹沢医師は、中村医師と同様に産業衛生学会で報告された頸肩腕障害の定義及び病像を重視する立場を採るが、なお、頸肩腕症候群ないし頸肩腕障害の診断に当たって重視すべき基準として次の三点を指摘する。すなわち、(1)個人の健康史(一定の症状が発現する時期と業務との関連)、(2)その症状が同一の職場で多発していること(疫学的観点)、及び(3)発病した者が業務を離れることによって症状が軽快又は治癒すること(逆に、その業務に就くとその症状が再発又は増悪すること)である。しかしながら、控訴人については、(1)の点はともかくとして、(2)の点を裏付けるに足りる証拠はなく(原審証人金子哲人の証言によりいずれも真正に成立したものと認められる甲第一二号証の一ないし三及び右証言中には、控訴人と同様に加算機業務を担当し、あるいはボールペン事務等に従事した税務署職員の中には頸肩腕障害に罹患している者が全国に多数存在する旨の記載及び供述があるが、右甲号証中に掲記されている事例は、その症状についての診断及びその症状と業務との関連等について客観的な資料の裏付けを伴うものとは認められないから、右記載及び供述を直ちに信用することはできない。)、また、(3)の点については、叙上認定のとおり(引用原判決理由説示二)、控訴人の症状は加算機業務を離れた後においても長期にわたって継続しているものであるから、それが直ちに右(3)の基準に該当するということもできない。したがって、芹沢医師が挙げる前記基準に照らしても、本件疾病が控訴人の前記認定の加算機業務に起因する頸肩腕障害であるとは直ちに認めることができないものといわなければならない。一方、原審証人井上幸雄及び当審評人石田肇はその各証言中において、いずれも整形外科医の立場から、産業衛生学会の前記頸肩腕障害の定義及び病像についての考え方は臨床上の個別の患者の診断及び治療に当たっては必ずしも有用なものではないこと、中村医師の診断はレントゲン所見を欠いている点で重大な見落しがあること、控訴人のレントゲン所見等からは本件疾病は変形性頸椎症と診断されるべきものであり、その発症の原因が控訴人の従事した業務によるものとは思われないこと等を証言するのであって、右各証言の内容及び叙上説示に照らすと、」

24  同九九丁裏六行目の「6」を「5」と、同一〇〇丁表一〇行目の「頸」を「頸椎」と、同裏六行目冒頭の「五」を「五の3」とそれぞれ改める。

25  同一〇〇丁裏一〇行目冒頭の「7」を「6」と、同行の「疾病の原因」を「疾病は変形性頸椎症であり、その原因」とそれぞれ改め、同末行の「頸椎椎間板の変性」の次に「(頸椎の加齢による変性)によるもの)」を加える。

26  (略)

27  同一〇一丁裏八行目の「神経根の刺激症状」の次に「(ラディキュロパチー)」を、同九行目の「現われること」の次に「(その疾患名は変形性頸椎症と呼ばれる。頸椎骨軟骨症、頸部脊椎症、頸椎椎間板症等も同義である。)」をそれぞれ加え、同一〇二丁表二行目の「限らないが」から同四行目の「証拠はない。」までを次のとおり改める。

「限らないが(加齢による頸椎の変性は何年もの経過を経て起こるので、神経自体は逃げるだけ逃げて狭い状態に適応しようとする生体の働きが認められる。したがって、その適応限界を超えたときに症状が現われるが、逆にこの変性が強く認められるのに症状が発現しない場合もある。また、一度症状が現われても、その後ある程度の期間経過後、その状態に生体が適応してそれらの症状が軽快ないし消失する場合もある。)、レントゲン上の所見と他覚的な臨床上の所見が一対一の対応(レントゲン上の所見箇所に対応する臨床上の症状の存在)を示すときには変形性頸椎症と診断することができること、控訴人の場合、昭和四五年三月二六日撮影のレントゲン写真(乙第四九号証)上認められる所見は、頸椎の自然前彎が消失し、頸椎全体が直線化していること、第五頸椎、第六頸椎を頂点として逆「く」の字の彎曲(局所彎曲)があり、第五頸椎の後下縁及び第六頸椎の後上縁に骨棘の形成が認められること、第五頸椎と第六頸椎の椎間孔が狭小化していることであり、以上のようなレントゲン上の所見は変形性頸椎症に該当するものであること、一方、右レントゲン上の所見に対応して控訴人には、庄司医師の診断(引用原判決理由説示二7)のとおり、頸椎の運動性についての症状、上腕三頭筋の軽い筋力低下等の臨床上の症状がみられたのであるから、控訴人の本件疾病は変形性頸椎症と診断することができること、以上の事実を認めることができる。これに対し、前掲証人芹沢憲一はその証言中において、芹沢医師が昭和六〇年九月に控訴人を撮影したレントゲン写真(甲第七八号証)によれば、控訴人にはその時点においても前記認定に係るレントゲン所見と同様の所見がみられたにもかかわらず、その当時控訴人の症状は消失していたのであるから、控訴人は変形性頸椎症に罹患していたものとはいえない旨の意見を述べるが、右認定のとおり、レントゲン上の所見が存在することから直ちに右疾患についての診断が可能となるものではないと同時に、レントゲン上において変形性頸椎症の所見が存在してもその症状が発現せず、又はその症状が消失することもあり得ることは当審証人石田肇の証言からもうかがわれ、その他前掲採用各証拠に照らせば、右意見を直ちに採用することはできず、ほかに前記認定を覆すに足りる証拠はない。」

28  同一〇二丁表五行目の「更に、」の次に次のとおり加える。「前掲証人石田肇の証言によれば、業務起因性のある頸肩腕症候群の場合、その九〇パーセント前後は一年以内に治癒するものであり、臨床医としては三か月間適切な治療をして、なおその治療に対する反応がみられないときは、ほかの疾病の可能性を疑ってみるというのであって、これを」

29  同一〇二丁表一〇行目の「現在に至るまで、」を「昭和五八年ころまで」と改め、同末行の「消えていないことからも、」の次に「本件疾病は頸肩腕症候群ではなく、その原因については」を加え、その裏一行目の「疑わせる。」を次のとおり改める。

「疑わせるものである(前記認定のとおり、変形性頸椎症の原因は加齢による頸椎の変性にあるが、前掲証人石田肇はその証言中において、控訴人が罹患した変形性頸椎症の発症の原因について控訴人が従事した業務は直接関係がなく、その発症については、子細に検討すれば控訴人の生活(その生活態度、習慣及び栄養、休息、睡眠、姿勢等)の中に必ずそれ相当の原因があるはずである旨を述べる。もっとも、同人が著者の一人である成立に争いのない甲第八七号証には、新しい計算器使用などの職業性頸肩腕症候群について控訴人の主張にそうとみられる部分がないではないが、右著述の一般的論述をもって直ちに右証言を採用しえないものということはできない。)」

30  同一〇二丁裏二行目の「以上」から同五行目の「難い。」までを次のとおり改める。

「以上によれは、控訴人の業務と本件疾病との間に相当因果関係を認めることはできないものというべきである。」

31  同一〇二丁裏六行目から同一〇四丁表一行目までの全部を削除する。

32  同一〇五丁裏三行目、同一〇六丁表三行目及びその裏一行目、四行目の「五、4」をいずれも「五3」と改め、同裏一〇行目の「及びその成立」を削り、同一〇七丁表二行目の「第一二条」を「第二条の規定」と改める。

33  同一〇八丁表末行及び同一〇九丁裏三・四丁目の「(第一、二回)」をいずれも「(原審第一、二回)」と、同一〇九丁裏一行目の「六月一八日」を「六月八日」と、同一一〇丁裏三行目、同一一二丁表七行目及び同一一三丁表五行目の「(第一回)」をいずれも「(原審第一回)」とそれぞれ改め、同裏末行から同一一四丁表一行目の「あったこと」の次に「、控訴人に対する右説明行為の性質」を加え、同一一四丁表一行目の「右行為をもって」を「右三島医師の診断結果についての説明行為をもって直ちに右天神医師を履行補助者とする被控訴人の行為として」と改め、同二行目の「認められず」から四行目の「受けたものとも」までを削る。

34  同一一四丁表末行の「五4(四)」を「五3(四)」と改める。

35  同一一五丁裏六・七行目の「被告がなすべきであるという規定」を「被控訴人に義務付ける規定」と改める。

36  同一一六丁表八・九行目の「棄却することとし、」を「棄却すべきである。」と改める。

二  そうすると、同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡邉卓哉 裁判官 土屋文昭 裁判官大内俊身は転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 渡邉卓哉)

別表1・2(略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例